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里山の原風景に誘われて

2021.05.01

周南市鹿野。

綺麗な空気、清らかな水、四季折々の里山の風景。
自然の美しい山口県においても、より自然の美しさが際立つ地域です。


そんな鹿野の未来を創る活動をしている団体『「鹿野の風」プロジェクト』を皆さんはご存じでしょうか?

今回、団体の代表である『福田 清治』さんにお話を伺ってきました。
自分たちの住む故郷への熱い想いや故郷を客観的に見た強み、そこから未来へ繋がる取組・・・。
そのお話に大変感銘を受け、是非多くの方に知っていただきたいと記事にしました。

私たちの住む地域に熱い想いを持った人たちがいて、その想いの下で熱く活動をしている。
その活動は大きな反響と広がりを見せ、将来的には同じ問題を抱える地域を元気づけるモデルケースになるかもしれない。

今回は、心落ち着く原風景を有するまちの、『心躍るエキサイティングな挑戦』のお話しです。

1.鹿野の抱える問題

鹿野、美しい里山の風景

美しい自然を有し、訪れる人の心を癒すまち『鹿野』
そんな美しいまちが抱える問題、それは人口減少です。
現在、鹿野の人口は3000人近くへと減少し、さらに毎年100人ずつ減っていると言われています。
10年後には2000人になると予想され、そうなるとまちからお店も減少していき、学校も廃校になり、人口減少に拍車がかかっていくことが懸念されます。

人が住まなくなった家は空き家となり、空き家はやがて廃屋となっていきます。

美しかった鹿野の風景が壊れていくかもしれない・・・。

そんな未来が脳裏をよぎった時、湧き出た想い。

「行動しないと始まらない!!今行動しないと後悔する!!」

そんな想いに突き動かされ、2011年、福田さんを代表とした鹿野地域の地域おこしグループ

『「鹿野の風」プロジェクト』が結成されました。

2.田舎の弱みは、実は強みだった!?

代表の福田さんのお庭

まず、着目したのが、『鹿野へのアクセスの良さ』です。
瀬戸内海側から日本海側までを縦に結ぶ国道315号と、広島県や福岡県に直結する中国自動車道のインターチェンジがあることなどから、『ドライブ客が来やすい』という強みがありました。

そこで、たくさんの方に来ていただく為の話題作りとして、地元の飲食店共同で地元食材である『夏イチゴ』を使ったスイーツ販売を行いました。

これがマスコミにも取り上げられるなど脚光を浴びたため、その後も『季節ごとの地元食材』をテーマに、10回を超えるイベントを開催しました。

その結果、鹿野のまちにたくさんの方が押し寄せ、この企画は大成功となりました。

様々なイベントを続け、コンスタントにお客様が来られる状態が続いて2年が経った頃、福田さんの経営されているカフェに来られていた常連客の一言が大きなターニングポイントとなります。

「イベントによって人が来ているけど、田舎の本当の良さが失われているのではないか?」

この一言をきっかけに『「鹿野の風」プロジェクト』メンバーは『鹿野の本当の良さ』について話し合いを重ね、一つの結論を導き出します。

鹿野の強み・・・それは、今まで弱みだと思っていた『田舎特有のゆっくりした時間の流れや不便さ』だということ。

イベントによる目先の交流人口を増やすより、『心地良い空間づくり』に力を入れ、それを求める多くの人が鹿野に足を運び、その魅力に気付く。
その中で、定住を考える人が増えてくれれば・・・。

それこそが本当の鹿野の魅力発信だと気付いた『「鹿野の風」プロジェクト』メンバーは、まちづくりの先進地である湯布院(大分県)や黒川温泉(熊本県)を何度も視察し、辿りついた結論は『誰の心にも存在するであろう原風景を具現化する』ということでした。

3.様々な活動内容

雑木(コナラ)を植える活動

原風景(げんふうけい)とは、人の心の奥底にある原初の風景であり、人によって異なるもののどこか懐かしさを感じる風景が多いといいます。遺伝子に刻まれた遠い日の景色とも言えるでしょうか。

鹿野の風景は、忙しさの中で一息つきたいと思う現代人にとっての原風景であり、そんな景色の中、立ち寄ったカフェで過ごす時間は訪れた人にとって『癒しのひととき』となります。

10年前より『「鹿野の風」プロジェクト』メンバーは、『里山まるごと花と雑木による木漏れ日計画』と称して様々な活動を続けて来られました。

その活動の内容をご紹介します。

雑木を植える活動


この原風景の形成のため、まずは『「鹿野の風」プロジェクト』メンバーが営むカフェや事業所等に統一感を持って『コナラ』を植えることから始めました。

カフェや事業所にコナラを植えていくメンバー

雑木を植え始めた当初は、「葉が落ちて掃除が大変なのでは?」「台風が来た時が心配」など不安に思う声も多かったですが、活動の意図を丁寧に説明することにより理解と賛同を得ていき、結果、メディアにも取り上げられたことでメンバーのお店や事業所以外にも広がりを見せることとなりました。

今では町中に30ヶ所89本のコナラが植えられ、雑木による木漏れ日の風景が広がっています。

ベンチを設置する活動


雑木が町中に増えた次の段階として、今度は雑木の傍に次々とベンチを設置していきました。

次々と運ばれるベンチ

こうした活動により、雑木を植えた場所には自然と人が集まるようになりました。
原風景が人にもたらす不思議な力を感じたメンバーは「これこそがまさに鹿野の良さであり、一過性の物ではない本来の魅力である」と確信しました。

里山オープンガーデンかの


鹿野には民家を含め、たくさんの素敵なお庭を有する場所があることに気付いたメンバーは、雑木と花を融合させた『里山オープンガーデンかの』を開催。

『農家レストランたぬき』さんの『たぬきの庭』
代表の福田さんのお家の庭

『里山オープンガーデンかの2021』開催中止のお知らせ

この度の新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、残念ながら4月末日にて開催中止となりました。今が里山の草木や花の美しい時だけに苦渋の決断だったと思います。開催を楽しみにされていた方も多かったことでしょう。残念ですが、引き続き活動を応援したいと思います。詳細は下記をご覧ください。

また、里山オーンガーデンかの2021では開催期間中『鹿野高原米』(2合)が無料で配布されました。

鹿野産コシヒカリ『鹿野高原米』

澄んだ空気と水に恵まれた高原のまちで作られた『鹿野高原米』は一等米のコシヒカリ。

味わい深く冷めても美味しいのが特徴で、本当に美味しいお米を味わいたい人にぴったりのブランド米です。

鹿野の米農家の方が丹精込めて育て上げたこのお米の素晴らしさを知っていただき、販売に繋げることで鹿野の米農家を守っていきたい・・・。その想いから無料配布が行われました。

山野草のエキ


また、『里山オープンガーデンかの』の中心的存在として、たくさんの方が立ち寄る『山野草のエキ』という財産が鹿野にはあります。

『山野草のエキ』とは、山野草が大好きだった故伊藤芳高(いとうよしたか)さんが75歳から17年の歳月をかけて独りで創り上げた、まるで「生きた図鑑」のような森です。
伊藤さんの私有地でありながら一般の方に無料開放し、山野草の魅力を伝えて来られました。

そこには350種類もの山野草が群生しており、これだけの山野草を1つの森で見ることができるのは大変貴重です。

しかも『山野草のエキ』は鹿野ICから車ですぐの場所にあり、このようにアクセスが良い場所でこれだけの山野草を見ることができるのは他には無いと言えます。

『山野草のエキ』入口
伊藤さんの想いが受け継がれています

伊藤さんが亡くなられた後も、福田さんを中心とした地元有志がその意志を受け継ぎ「山野草のエキ保存会」を立ち上げ、現在も草刈りやイノシシ対策などの手入れを続けておられます。

その活動は手入れだけに留まらず、山野草の種類を増やしたり、苗の育成・定植・群生化にも及びます。

山野草を根付かせるのは簡単ではないため、保存会としての活動をすればするほど、伊藤さんがお1人で続けて来られたことの偉大さに感服するばかりだという福田さん。

それでも続けることができるのは、ここを訪れた方に「感動を届けたい」という想いから。

鹿野にはこのように人々を感動させる場所が点在しています。

4.まとめ

今回、お話しを伺った福田さんご夫婦

鹿野のファンを増やし、遠方からでも訪れてもらえるような、そんな町にしたい。

活動を始めて10年。

その成果は目に見えてわかるほどで、町も、そして訪れる人の数も少しずつ変化してきました。

元々のアクセスの良さもあり、都会から訪れる方も増え、その受け皿としてカフェなどの飲食店も増えています。

しかし、活動を継続・拡大することには費用もかかります。

そのため、大手企業等に助成金を申請するなど、常に活動費の工面の大変さはついて回る問題です。

しかしながら、応援していただいている企業が増えているということが、この活動の価値を証明しているといえるでしょう。

鹿野のファンの中には、いずれ定住を考える方も出てくるでしょう。

その縁の中で、全国的にも問題となっている『空き家』を再生する知恵を貸してくれる方との出会いがあると信じている。と福田さんは仰っておられました。

弱みを強みに転換し、魅力を増していく鹿野。

このまちの物語は、全国で同じ問題を抱えるまちのモデルケースになり得る。

今回の話を聞かせていただきながら、そう強く感じました。

福田さんは言われます。

「伊藤さんが『山野草のエキ』を始められたのが75歳のとき。私は現在72歳なので、あと3年後です。それを考えると伊藤さんの偉大さを改めて感じるとともに、私も頑張ろうと思えます。」

「若い頃の自分より、今の自分の方が元気なんです」と笑顔で語られる福田さん。

活動していく上での苦労よりも、活動をすることで鹿野のまちが活き活きと魅力を増すことが嬉しくて楽しくて仕方ない。

そんな心境がその笑顔に表れていると感じました。

そして、そんな魅力的な活動は同じ熱を持つ仲間を集め、後継者が育って行くのだと思います。

今回の話を聞いて、私たちの住む地元にもこのように熱い想いを持って活動されている方々がいらっしゃるということを改めて知り、是非皆さんにも知ってもらいたいと強く感じました。

地元がますます好きになる、地元を誇ることができる、そんな出会いでした。

皆さんも、ぜひ改めて鹿野へと足を運んでみてください。

活動の背景にある想いを知った今、今までと違った景色がそこにあると思います。

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この記事を書いた人

かわちゃん

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占いで「食べ物の神様」が味方だと言われました。 好奇心も食欲も旺盛です。下松市在住。