『白壁の町並み』に思い出を添える『やないろ』
2021.07.04
照り付ける暑さが徐々に和らぐ夕暮れ。
江戸時代の商家が残る『白壁の町並み』にやってきました。
視界の端まで続く真っ白な壁を持つ家とアンティークな街灯。
『白壁の町並み』を歩くとタイムスリップしたような気分になります。
今回ご紹介するのは『白壁の街並み』に並ぶ、ランチとおやつが楽しめるお店『やないろ』さんです。
1.地域に寄り添った『やないろ』
ゆるんだ表情の金魚ちょうちんに迎えられ、お店の引き戸をくぐると楽しそうな笑い声が聞こえてきました。
地元のお話に盛り上がるお客さんと店主の中本さんの話し声でした。
「こんにちは」と挨拶しながら買いに来られる方や「また来ます」とにこやかに帰っていく方。
お客さんは「顔を見せに来たよ」といった感じで気軽にお店に入ってこられます。
取材で来ていた私は「みんないいなぁ、常連さんって感じがする」と思わず羨ましい気持ちに。
「地域に密着した場所でありたい。地元の人のためにお店をしたい」そう語る中本さん。
その想いを抱くようになったのには、今までの経験が大きく影響しているそうです。
中本さんはお店を始めるまでは、地域に深く関わる仕事を中心にされていました。
地元で必要とされている清掃から土木まで多様な事業に取り組む中で、「もっと地域の中で生活したい」そんな風に考えられたそうです。
「もっと地元に密着した事業は何だろうかと考えた時に「食」が1番だと思いました。すべての人に共通するのは食事ですし、食を通してもっと地域に寄り添った仕事をしたいと思いました。前職で色々と経験させてもらった中でも飲食業は初めてなので、やってみたかったんです」
中本さんはお店を始めるにあたり食生活アドバイザーの資格を取得し、2019年『白壁の街並み』に念願の『やないろ』をオープンされました。
「毎日が文化祭」というコンセプトのこちらのお店。
店内の雰囲気は1か月来ないだけでガラっと雰囲気が変わるそうです!
天井を泳ぐ金魚ちょうちん、地元の作家さんのハンドメイドアクセサリー、赤と白のコントラストが可愛いのれん・・・。
どれも可愛いなぁと見ていると、「ここにあるものには1つ1つ思い出があるんですよ。飾っている金魚ちょうちん、これは田布施農工の学生がクレープコラボの時にお礼としてプレゼントしてくれました。そうやって人と人が繋がって今の『やないろ』があるんです」と教えてくださりました。
他にもハンドメイド作家の方が繋いでくれて実現したコラボメニューもあります。
たとえば柳井市にある『たまごっちゃ』の平飼いたまごを使ったクレープ。
こちらの記事でもご紹介していますが、『たまごっちゃ』のたまごはぷりっぷりなんです!
新鮮なたまごとクレープのコラボ、とても気になります!
「もっと地域の人と関われるようなお店にしたい」という想いで始まったこちらのお店。
受け取ったバトンを次の人に渡すように『やないろ』から新たな出会いが繋がっていきます。
2.「また来週ね」と言い合う子ども食堂
地域の人との繋がりを大事にしている『やないろ』。
ランチ営業やおやつの販売だけでなく、毎週子ども食堂も主宰されています。
学生時代に保育の勉強もされていた中本さん。
「いつか地元で子育ての環境を作っていきたい」という目標がありました。
お店を始めてすぐは時間と気持ちに余裕がなく、そろそろ落ち着いてきたので「子ども食堂を始めよう」という矢先に新型コロナウイルスが流行。
コロナ禍でも開催できる形を模索し、2020年7月から毎週日曜日に開催されています。
中本さんが目指す子ども食堂は、ごはんを食べるというよりも交流の場所。
「子どもたちにお腹いっぱいごはんを食べてもらうならば、週に何回開催すれば充分なのかと頻度も考えなければなりません。ですが、無理をして開催してしまうと続けられなくなります。いつも自然体で、できる範囲で開催することを意識しています」
たしかに取材中の中本さんも自然体。
私の話にうんうんと頷いてくれたり、一緒にケラケラと笑ったり・・・一瞬で時間が過ぎていきました。
「子ども食堂をしていると悩むこともあります。定員に満たない時は、今日は少なくて残念だなと思った時もありました。ですが、来てくれた子がまた来週もくるね~と笑顔で帰ってくれることの方が嬉しいです。その中でやり続けることに意味があると思っています」
「手をかけて一生懸命育てた野菜こそ大きくならないことがある」と喩えられた中本さん。
「子どもたちと一緒に楽しめる空間を作りたい」という強い想いと、あくまで自然体で飾らない姿を見て「来週の献立はー?」と子どもたちは言いたくなるんだなぁと感じました。
3.『白壁の町並み』でお店をやりたい
地元に溶け込む空間にするためには、お店を構える場所も重要でした。
中本さんにとって『白壁の町並み』は特別な場所だそうです。
「柳井市の『白壁の町並み』は、一段と綺麗って評判なんですよね。ですが柳井市出身の僕でも『白壁の町並み』に思い出があまりなかったんです。それならば、みんなに『白壁の町並み』で思い出を作ってほしくて。お店を開くならこの場所と決めていました」
実際に営業をしてみると駐車場が少し離れていたり、天候に左右されたりといい部分ばかりではなかったそうです。
しかしこの場所を選んだことは正解、おかげで色々な人に出会えたと話す目尻のさがった優しい笑顔が印象的でした。
『やないろ』で繋がった人の笑顔や思い出が、今日も『白壁の町並み』を鮮やかに色づけていきます。
4.まとめ
取材中は終始楽しい時間であっという間に過ぎてしまいました。
帰りは「運転、気を付けて帰ってね~」と出口までお見送りしてもらい、なんだか常連さんになった気分。
「いつでもまた遊びにおいでね」とも言ってもらえて、とても嬉しかったです。
お店に入った時から感じていた懐かしさは、中本さんのお客さんを想う温かさが理由でした。
次来るときは『甘露醤油ソフトクリーム』を片手に『白壁の町並み』をゆっくり歩いてみます。